【吹奏楽名曲紹介】「…そしてどこにも山の姿はない」(シュワントナー)

「…そしてどこにも山の姿はない」 

この曲は、今となっては古めかしい単語となってしまった笑、「前衛音楽」というジャンルで、いわゆる現代的というか、既存の記譜や音楽の作り方に捉われない発想を用いた作品です。

楽器編成だけでなく打楽器を中心とした奏法、拍ではなく秒数を指定するといった特殊なコンセプトによる作品で、一般的な吹奏楽で演奏するのは議論を湧き起こしている曲でもあります。

「現代詩から着想を得た世界観」

1975年に発表されたキャロル・アドラー(夫は当時のイーストマン音楽院教授だったサムエル・アドラー)の詩集『Arioso』から着想を得て、1977年にドナルド・ハンスバーガー指揮でイーストマン・ウィンド・アンサンブルにより初演されました。

arioso bells<br>sepia<br>moon-dreams<br>an afternoon sun blanked by rain<br>and the mountains rising nowhere<br>the sound returns<br>the sound and the silencechimes

というキャロル・アドラーの一節が着想とされており、スコアにも彼女への献呈辞が記されています。

日本では1990年に同楽団が来日した際に初演し、翌1991年に埼玉栄高等学校によって全国大会され、大きな話題となりました。現代音楽とは言え、前半から後半にかけて非常にドラマティックな展開がなされる聞いていて面白い曲です。

個性的な編成

シュワントナー自身はあまり日本の吹奏楽コンクールでの演奏を好ましく思っていないと言う噂もありますが、教育や現代音楽への入り口として大変意義深い曲であるように私は思います。

通常の吹奏楽とは異なり、ウォーターゴングなどといった手の込んだものを含む46の打楽器、グラスハープ、口笛、が使われ、またPAによって音量が拡大されたピアノが非常に重要な役割をなっています。

現代的でありながらも、音楽の展開は非常にドラマティックな場面を含み、わずか12,3分の中にもしっかりと世界観を感じることができ、この作品は全米芸術基金の賞を受賞しています。