チューニングやバランス練習が終わるといわゆる「スケール練習」というものを練習するバンドが多いと思います。というわけで、マンネリ化しがちなスケール練習について考えてみましょう。
そもそもスケールとは?
スケールの定義も色々とありますが、いわゆる音階のことですね。古今東西様々な局面でスケール練習が推奨されていますが、西洋音楽のみならず、とにかくスケールは音楽の本質の一つと言える概念です。
多くのバンドが基礎合奏において一番初めに練習する「バランス」練習はいわゆるオクターブの関係を見るものであり、ヒトが音を聞く時に一番最初に認識する音程尺度です。そしてその次に出てくるのがオクターブを分割したスケールになるわけで、音響心理的にも2番目に基礎的な概念と言えます。
何調でやる?
多くの学校では長音階特にB♭の長音階を練習すると思います。もちろん、俗に言う「鳴りやすい」調ですが、B♭だけ妙になりが良い奏者を増やしているのが、吹奏楽の弊害の一つだと思います。
もちろん、吹奏楽作品は教育的な配慮もありフラット系の作品が多いですが、ある程度B♭での基礎合奏が安定してきたら、シャープ系の調もしっかりと訓練しておくことが良いでしょう。
自分のソルフェージュや楽器の特性と、調合の関係を掴んでおくと、普段の曲の合奏や個人練習もグンと効率がよくなります。
まずはユニゾンで
スケール練習というと、最初から純正調を念頭に置いた低音パートとその他で別のパッセージを吹く練習がよく行われていますが、平均律でしっかりとユニゾンを作る練習も効果的です。
もちろん、純正律でのスケール練習も効果的ですが、鍛えたいバンドの力は平均律でのスケールとは勝手が違います。楽器の特性や音域の緩やかな変化に対応して、安定したクオリティで音を並べる練習として、ユニゾンでのスケール練習は非常に効果があります。
サウンド作りのスケール練習
ユニゾンのスケールの次の段階あるいは、前段階としてサウンド作りのためのスケール練習が挙げられます。やることはユニゾンでのスケール練習と同じですが、核になるパートからスケールを繰り返し重ねていくという練習です。
例えば、クラリネットの響きを中心とした伝統的なスタイルのサウンドを作りたい場合、クラリネットからその他の木管を加えていき、サックスとホルンを経由してトランペットなどの直管を加えていくという方法が考えられます。
他にも、木管のCグループすなわちクラリネットやアルトサックスとトランペットの響きを混ぜてから、中音域と低音域を順次加えていくというやり方もあります。
こういった、目指したいサウンドを念頭に置いて楽器を重ねる順番を工夫するという練習は、強豪バンドでは伝統的に行いそれが染み付いているものです。目標にしたいサウンドのバンドがあれば、こうしたスケールとサウンドの練習方法を聞いてみて実践してみると非常に効果があります。
純正律スケール
さて、お待たせしました。多くのバンドで「スケール練習」と言えば、この「低音の根音に対してスケールを純正調で乗せていく」スケールを指していることかと思います。
この練習、私はサウンド作りとは別の意味合いを強く意識することを推奨します。それは「耳を鍛える」ということです。サウンド作りに関しては、上で述べてきたような練習の方が効果的ですし、それぞれのバンドに合わせてデザインができます。
一方でこの「純正調スケール」は、奏者一人一人の読み書きと同じ「演奏家としてのリテラシー」の育成に不可欠な練習です。自分が吹いている音がハーモニーの中で何なのか?そして、その時の響きの具合を頭と体に染み込ませるのが、この練習のもっとも意義深いポイントです。
したがって、サウンド作りのスケールと耳を鍛えるためのスケール練習、それぞれ別に時間をとって、組み合わせて行うことが効果的です。
スケール練習をデザインしよう
ここまで、スケール練習の意味合いや捉え方、いくつかの練習方法について解説してきました。それでは、それぞれをどう組み合わせるか?考えてみましょう。
まず第一に、「今やってるスケール練習を大事にする」のが一番です。バンドの特性は様々で、万能なメソッドなど存在しません。練習環境や時間も様々の吹奏楽という合奏形態において、これまで積み重ねてきたことは決して無駄にはなりません。自信を持って今までの練習を続けましょう。
ただし、そのスケール練習の仕組みや役割、意味などは一度確認しておくべきでしょう。そして、その上で足りないスケール練習を補っていくのが良いと思います。
いずれのバンドも、「純正調」のスケールは是非とも入れておきたいところです。中高生など初心者や「倍音」の概念に親しみのない奏者が多い場合は、長いスパンをかけて「耳を鍛える」練習を継続することが重要です。
初心者が多いバンドでは、ユニゾンで「全員で正しく丁寧に」スケールを吹く練習が効果的です。もちろん「下り」のスケールも忘れずに行いましょう。往往にしてスケールは下りの方が難しいものです。実力差が大きい中高生のバンドでは、先輩たちだけ先に吹いてその後で後輩たちが合流するというやり方も良いでしょう。
ある程度、個々の奏者が安定してスケールを吹けるようになったら、「サウンド作りのスケール練習」を行ってみると良いでしょう。なかなか難しいですが、これも上昇と下降の両方を行うと効果的です。
継続は力なり
ここまで解説してきた「スケール」は本当に伝統的な練習法ですが、一番は個々の奏者が少なくとも全ての長調でスケールを安定して綺麗に吹けるよう練習することが重要です。
一人一人の技術の安定や耳を鍛えるという点において基礎合奏は非常に重要ですが、その一人一人の技術をある程度まで個人練習で高めておくこと、そして基礎練習での意味合いをしっかり理解しておくこと、その上で合奏活動を継続することが非常に重要です。