通称「三ジャポ」でお馴染みの日本を代表する吹奏楽の名曲で、真島俊夫先生による、日本で最も親しまれているといっても過言ではない吹奏楽オリジナル作品です。初演は2001年に東京佼成ウィンドオーケストラによって演奏されました。
西洋の音楽技法と和風テイストを見事に融合させた作品として、海外でも高い評価を得ている日本が誇る吹奏楽作品です。余談になりますが、ウィキペディアに乗っているほど有名な?作品です。
I.鶴が舞う (La Danse des Grues) II.雪の川 (La Rivière Enneigée) III.祭り (La Fête du Feu)の三部構成になっており、それぞれの場面で異なる描写をしており、曲想も大きく異なっています。
コンクールでもよく演奏され、全国大会で聞くことは少なくなりましたが、支部大会レベルではよくこの曲を耳にしますね。コンクールでは真島先生ご自身が再編した「コンポーザーズ・エディション」の演奏が推奨されてます。
「世界の真島」が描くジャポニスム
「ジャポニスム」というのは19世紀の万博を契機として欧米の芸術界で大流行したいわゆる「日本趣味」のことで、浮世絵からインスピレーションを受けたゴッホや、プッチーニの「蝶々夫人」が有名です。
興味深いことに、日本では文明開化によって急速に廃れていった江戸文化が西洋で評価されるということで、当時の日本の芸術作品が現代では逆輸入されることもあるそうです。
そんな「ジャポニスム」を現代に蘇らせたのが真島先生の「三つのジャポニスム」と言えます。西洋音楽の技法や和声、オーケストレーションを用い、正当な「日本趣味」を見事に表現しています。
一昔前のSF映画や、「クールジャパン」とは一線を画して吹奏楽の世界で描かれるジャポニスムはまさしく名曲でしょう。
「和の世界を体現する仕掛けの数々」
真島先生はこの曲を欧米のバンドでも演奏できるような工夫をしていますが、とくに打楽器に関しては和楽器を多用することで知られています。
I.鶴が舞う、は北海道の丹頂鶴の求愛のダンスをイメージしており、打楽器の楽譜には「鳥の羽音」という指定があります。扇子を使われることが多いですが、団扇などを使ってパタパタと仰ぎ叩き音を出します。
II.雪の川、では雪国に降り積もる音のない様子が(雪国の人ならわかると思います)描かれ、「竹鳴子」いわゆるバンブーチャイムのようなものが使われます。
III.祭り、は青森のねぶたが奏でられ、大きな「桶太鼓」が使われます。コンクールなんかでパンフレットを見なくても、この太鼓を見るとセッティングの時点で「三ジャポだ!」ってわかりますよね笑。この他にも「あたり鉦」「しめ太鼓」をはじめとした和楽器がこれでもかと使われます。
今となっては、メジャーなこの作品ですが、発表当時はもちろん前例のないタイプの作品で、「鰻の蒲焼を焼くときの要領」や桶太鼓のバチについては「剣道の竹刀を分解し、適当な長さに切った二本をバチにし、先ではなく中間部分でバシッと叩く」と説明されるなど、師匠である兼田先生のような奏者への寄り添いを感じられます。
フランス文化の理解という視点
この作品を考える上で見過ごされがちなのが、真島先生とフランス、特にパリとの関係です。和風な曲想やセンセーショナルな歴史に目を取られがちですが、真島先生の作品を考える上ではパリは非常に重要な要素です。
弟さんがフランスに駐在していたという理由で、真島先生は1993年に初めてパリを訪れた際に非常に大きなインスピレーションを受けたと言います。パリを訪れたことを契機に作品は大きく変わり、1997年の「巴里の幻影」は代表作の一つとなっています。
聞くところによると、本気でパリへの移住を考えていたそうです。また、叶わぬこととなってしまいましたが、死ぬ直前にパリに行ってから死ぬことでプロフィールに「パリに没す」を入れようなどということを言っていたそうです。
フランス文化を非常によく研究しており、その結果としてパリを見た日本人によるパリの印象を描いた「巴里の幻影」そして、その真逆の立場で日本を描いた「三つのジャポニスム」という観点は非常に興味深いものです。
4つ目のジャポニスム、鳳凰へ
「三つのジャポニスム」という大作を作曲した後、そのヒットもあってか真島先生はスランプに陥ったと言われています。ただ、小澤俊朗先生率いる神奈川大学吹奏楽部が積極的に作品を海外で演奏するなど、海外でも真島作品は受け入れられるようになりました。
そして、2006年には第二回クードヴァン国際交響吹奏楽作曲コンクールでグランプリに前年に作曲した「鳳凰が舞う」がグランプリに選ばれ、日本を代表する作曲家から世界の真島へとなりました。