【吹奏楽名曲紹介】 第六の幸福をもたらす宿 (マルコム・アーノルド)

日本の吹奏楽業界の中でもっともヒットしたアレンジ作品の一つで、作曲家としてのアーノルドは知らないけどこの作品は知っているという人も多いかと思います。

1996年に全国大会に登場して以来、演奏されない年はないと言って良いほどの演奏頻度を誇る名作です。近年は天野正道先生なども編曲を手がけていますが、やはり瀬尾宗利先生の編曲が有名です。

演奏難易度はカットやアレンジにもよりますが、中高生も演奏できる難易度として知られています。しかしながら、瀬尾先生のシンプルなクセのないアレンジは、バンドとしての平均的な総合力が明るみに出てくるため、ボロを出さない演奏が困難であるとも言われています。

親しみやすい旋律に溢れた映画音楽

メロディーメーカーとしてのアーノルドの才能が色濃く反映された日本の吹奏楽界を代表する映画音楽由来の作品です。中国奥地の山村へ赴き伝道をしようというイギリス人女性伝道師の物語で、伝道のため現地で「六福桟」という宿を運営することで生まれる出会いや事件、恋愛を描いた作品です。

第1曲「ロンドン・プレリュード」:短い前奏から、二拍三連を含む「決意のテーマ」がホルンによって奏でられ、そこから汽車を思わせるジョイントを経て、優美な「博愛のテーマ」がうたわれます。

第2曲「ロマンティック・インタリュード」:フルートソロから始まり、「博愛のテーマ」と「決意のテーマ」がハープの伴奏とともに優しくロマンティックにうたわれます。オーケストラの原曲でも各楽器のソロの見せ場があり心洗われる作品となっています。作品中の主人公グラディスと将校リン・ナンとが愛を深めるシーンが描かれます。

第3曲「ハッピー・エンディング」:強烈な連符から「決意のテーマ」が伸びやかにうたわれます。その後、重々しい雰囲気に変わり物語の中のピンチの場面で流れる「危機のテーマ」が狂騒的に神田出られます。それが過ぎ去るとこの作品の中で印象的な三つ目の曲「This Old Man」という童謡が出てきます。軍の攻撃から逃げるため子供たちを連れて山越えをする主人公たちのテーマソングで、途中「決意のテーマ」を内包しつつエネルギーを高めていきます。クライマックスは「博愛のテーマ」が情熱的に歌われ、フィナーレに向かいます。

演奏のポイント

この作品はオーケストラ作品が元になり、瀬尾さんが編曲したものです。瀬尾さんのアレンジはパートによってはオーケストラの楽譜をあまり変えずに吹奏楽に落とし込んでいるところもあるので、まずは原曲でどの楽器が担当しているパッセージなのか?どのパッセージがオーケストラの管楽器パートと同じなのか?という点をしっかりと理解しておくことが重要です。

オーケストラの時にどうだったか?という点を意識しないと瀬尾さんのアレンジを立体的に響かせるのは難しいと思います。

ホルンが楽しいけど難しい!

何と言ってもホルンが大事な曲です。貧弱なホルンではこの曲は全く映えません。がっつりバリバリ吹けるホルンセクションなら是非とも挑戦してもらいたい作品です。なお、三楽章にはハイFを含むパッセージもありますので要注意です。

決意のテーマの二拍三連はしっかりと正確に吹きたいところです。これが崩れるとかっこ悪い演奏になってしまいます。二拍三連や五度の跳躍がポイントとなるパッセージなので、ツボを抑えた演奏を心がけたいものです。

魅力的なソロ回し

吹奏楽の定番とはいえ、元はと言えばオーケストラ作品なので、各パートのトップには実力者が必要です。全曲盤ですと、ソリスティックな表現も求められますし、バスーンとピッコロのソリのような難しい箇所もあるのでしっかりと練習や打ち合わせが必要です。

特に二楽章は、使われている音階が東洋的なのでしっかりと考えたカンタービレで表現しないといわゆる「センスのない」演奏になりがちです。

「This Old Man」

この作品の人気メロディーの「This Old Man」は、本来は山越えの曲でそんなに軽快なマーチではないのですが、コンクールでのヒットにより最近ではかなり早いテンポでの演奏が主流になりつつありますね。

キャッチーで親しみやすい旋律ですが、オーケストレーションの移り変わりや各パートの見せ場も含まれているので演奏のやりがいのある場面です。吹奏楽では二人で叩きますが、確かオーケストラだとバスドラムとシンバルが一人で叩いたりする見せ場として有名だった気がします。

甘く優美なフィナーレ

三楽章のラストの愛のテーマの主旋律ユニゾンはなかなか綺麗に聞かせるのが難しいようで、コンクール音源でもこのフィナーレをしっかりと聴かせらるクオリティに仕上げている団体は少ないように思います。感動的なメロディですので、しっかりと練習して「サウンド」として聴かせられるメロディにしたいものです。

なお、楽譜に間違いがあることが多い譜面ですので、そういった点にも注意して譜読みすると安心でしょう。

名盤・参考

ロンドンフィルハーモニー管弦楽団のオーケストラ音源で非常に聴きやすく入手もしやすいCDです。

土気シビックのこのCDも名盤とされています。色々な曲が詰まっていますのでぜひ!