グラールウィンドオーケストラ・東京正人吹奏楽団・茨城県立日立第一高等学校吹奏楽部・三重県立名張桔梗ヶ丘高等学校吹奏楽部による2009年の共同委嘱作品です。
60小節で9分!の「スラブ風アダージョ」
指定テンポが四分音符=28という一般的にはあまり見かけない速度が示しており、”Molto Adagio”と表記されています。これにより、わずか60小節しかないものの10分弱の長さの作品となっています。
天野先生によると、この速度記号はマーラーやベートーヴェンが好んで使っていたが、最近ではそういったテンポでは演奏されなくなってきている。時代の流れが速くなっても、指定のテンポでじっくり演奏することで深い表現ができる。としています。
また、この曲を指揮するであろう佐川さんに対しても、「例年、練習が進むほど指定のテンポよりどんどん遅くなり、思い入れたっぷりの演奏を聞かせてくれる佐川さんは、この極端に遅いテンポをどのように表現してくだされるのか楽しみです」と語り、前年に「スペイン風」の注文で苦しめられた佐川さんへの一つの挑戦とも取れる曲となっています。
優しく優雅なアダージョが各楽器のソロやオーケストレーションの変化、アゴーギグをふんだんに取り入れながら奏でられます。天野節が全開となるクライマックスは非常に印象的です。
演奏のポイント
わずか60小節で、同じ旋律が繰り返されるとはいえ、アゴーギグや歌い回しについては非常に奥が深いので、かなりの練習が必要になる作品でしょう。指揮者のアナリーゼや指揮が非常に重要になってきます。
安らかで優美な旋律も、情熱的な旋律も内包する時間がとても長いので、シビアな音程感やソルフェージュが求められます。ロングトーンをはじめとした基礎能力、激しい歌い込みに左右されることなく安定した音色の維持が求められます。
いずれにせよ、非常に難しい作品であることに変わりは無いので心して取り組み、聴衆をうっとりとさせたい作品です。
名盤・名演
コンクールでは中間部に「急」の部分が出てくる「〜ドゥルギェ」もよく演奏されます。